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論文7

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Hydrogen-rich water protects against liver injury in nonalcoholic steatohepatitis through HO-1 enhancement via IL-10 and Sirt 1 signaling

水素水は非アルコール性の脂肪肝(NASH)の肝障害を防ぐ

 

 

 

(10秒で読めるまとめ)

アルコールを飲まない人に起こる脂肪肝(NASH)をネズミで再現し、20週間にわたり水素水を飲ませた結果、水素が、その抗酸化・抗炎症作用により肝臓の損傷を軽減し、長寿遺伝子を誘導して異常な脂肪代謝を抑えることで、脂肪肝を改善することがわかった。

 

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

水素が、酸化ストレス・炎症反応を抑制することで、NASHの脂肪肝を改善することがわかった。

◆ポイント

·  肝硬変・肝がんの原因となる非アルコール性の脂肪肝(NASH)をネズミで

再現し、高濃度水素水を20週間飲ませるグループと、飲ませないグループに

分け、それぞれの病状を比較した。

·  水素水を飲ませたネズミでは、炎症を引き起こす因子(炎症性サイトカイン)

の発現量と肝障害の程度を示す値(ALT・AST)が下がり、抗酸化作用がある

酵素(HO-1)の値が上がった。

·  さらに、水素は長寿遺伝子(Sirt1)を誘導し、異常な脂質代謝を抑制した。

 

 

(原文と翻訳)

Abstract

Nonalcoholic steatohepatitis (NASH) could progress to hepatic fibrosis in the absence of effective control. The purpose of our experiment was to investigate the protective effect of drinking water with a high concentration of hydrogen, namely, hydrogen-rich water (HRW), on mice with nonalcoholic fatty liver disease to elucidate the mechanism underlying the therapeutic action of molecular hydrogen.

【背景・目的】非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、効果的に制御しないと肝線維症に進行し得る。この実験の目的は、水素水(HRW)が非アルコール性脂肪性肝疾患のネズミに及ぼす保護効果を調査し、水素治療の効果の根底にあるメカニズムを解明すること。

 

The choline-supplemented, l-amino acid-defined (CSAA) or the choline-deficient, l-amino acid-defined (CDAA) diet for 20 wk was used to induce NASH and fibrosis in the mice model and simultaneously treated with the high-concentration 7-ppm HRW for different periods (4 wk, 8 wk, and 20 wk). Primary hepatocytes were stimulated by palmitate to mimic liver lipid metabolism during fatty liver formation. Primary hepatocytes were cultured in a closed vessel filled with 21% O2 + 5% CO2 + 3.8% H2 and N2 as the base gas to verify the response of primary hepatocytes in a high concentration of hydrogen gas in vitro.

【方法】ネズミに、コリン補給済み完全合成化lアミノ酸(CSAA)とコリン欠乏完全合成化lアミノ酸(CDAA)の食事を20週間与え、NASHと線維症を誘発し、同時に、4週間、8週間、20週間に分けて7 ppmの高濃度水素水で治療をした。初代肝細胞はパルミチン酸によって刺激し、脂肪肝形成中の肝臓脂質代謝を模倣した。また、初代肝細胞を高濃度水素ガス(21%酸素+5%二酸化炭素+3.8%水素+窒素ベース)を満たした密閉容器で培養し、反応を確認した。

 

Mice in the CSAA + HRW group had lower serum levels of alanine aminotransferase (ALT) and aspartate aminotransferase (AST) and milder histological damage. The inflammatory cytokines were expressed at lower levels in the HRW group than in the CSAA group. Importantly, HRW reversed hepatocyte fatty acid oxidation and lipogenesis as well as hepatic inflammation and fibrosis in preexisting hepatic fibrosis specimens. Molecular hydrogen inhibits the lipopolysaccharide-induced production of inflammation cytokines through increasing heme oxygenase-1 (HO-1) expression. Furthermore, HRW improved hepatic steatosis in the CSAA + HRW group. Sirtuin 1 (Sirt1) induction by molecular hydrogen via the HO-1/adenosine monophosphate activated protein kinase (AMPK)/peroxisome proliferator-activated receptor α (PPARα)/peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPAR-γ) pathway suppresses palmitate-mediated abnormal fat metabolism. Orally administered HRW suppressed steatosis induced by CSAA and attenuated fibrosis induced by CDAA, possibly by reducing oxidative stress and the inflammation response.

【結果】CSAA+水素水グループのネズミは、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清中濃度が低く、組織学的損傷が軽度だった。水素水グループでは、炎症性サイトカインの発現がCSAAグループより少なかった。重要なことに、水素水は肝細胞の脂肪酸酸化と脂質生合成、および肝線維症の標本における肝炎症と線維症を逆転させた。水素がヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現を増加させることで、リポ多糖が誘導する炎症性サイトカインの産生を阻害することは知られているが、さらに今回、水素水は、CSAA+水素水グループにて脂肪肝を改善した。また、水素がHO-1、AMPK、PPARα、PPAR-γ経路を介して誘導したサーチュイン1(Sirt1)が、パルミチン酸経由の異常な脂肪代謝を抑制することがわかった。経口投与された水素水は、おそらく酸化ストレスと炎症反応を軽減することにより、CSAAによって誘発される脂肪肝を抑制し、CDAAによって誘発される線維症を軽減した。

 

NEW & NOTEWORTHY The mRNA expression of inflammatory cytokines in the HRW group was lower than in the CSAA group. HRW reversed hepatocyte apoptosis as well as hepatic inflammation and fibrosis in NASH specimens. Molecular hydrogen inhibits LPS-induced inflammation via an HO-1/interleukin 10 (IL-10)-independent pathway. HRW improved hepatic steatosis in the CSAA + HRW group. Sirt1 induction by molecular hydrogen via the HO-1/AMPK/PPARα/PPARγ pathway suppresses palmitate-mediated abnormal fat metabolism.

【注目すべき新発見】水素水グループの炎症性サイトカインのmRNA発現は、CSAAグループより低かった。水素水は、NASH検体の肝細胞死、肝炎症および線維症を逆転させた。水素分子は、HO-1/ IL-10非依存性経路を介して、リポ多糖により誘発される炎症を抑制することがわかった。CSAA+水素水グループにて、脂肪肝が改善した。HO-1 / AMPK /PPARα/PPARγ経路を介した水素によるサーチュイン遺伝子誘導が、パルミチン酸を介した異常な脂肪代謝を抑制することもわかった。

 

 

Keywords: fatty liver脂肪肝; fibrosis線維症; heme oxygenase-1ヘムオキシゲナーゼ-1; hydrogen-rich water水素水; sirtuin 1サーチュイン1.

 

 

 

英語 日本名 説明
Nonalcoholic steatohepatitis (NASH) 非アルコール性脂肪肝炎(ナッシュ) アルコールをほとんど飲まない人に起こる

脂肪肝のこと。過剰な脂肪蓄積や

インスリン抵抗性などの代謝異常に、

炎症性サイトカイン、酸化ストレスなどの

炎症刺激が加わることで発症に至るとされ、

肝硬変や肝がんへと進行する。

fatty liver 脂肪肝 肝臓内に中性脂肪が貯まり、脂肪が肝臓全体

の30%以上を占める状態。放置すると肝臓の

機能悪化や肝炎・肝硬変などの深刻な病気に

進展する。

hepatic fibrosis 肝線維症 肝臓が線維化(損傷部が過度の組織増生を

しながら治ることで,肝臓内に過剰な

結合組織が蓄積すること)した状態。

進行すると肝臓が硬くなり肝硬変になる。

NASHの進行に大きく関わる。

fibrosis 線維症 有効な治療薬のない難病。慢性炎症に

応答した筋線維芽細胞が過度の組織増生を

しながら損傷部を治すことで、その部分が

硬化した状態。毒素、感染性病原体、

自己免疫応答、機械的ストレスなど、

様々な刺激により誘発される。

hydrogen-rich water (HRW) 水素水(高濃度水素水) その名の通り、なかに一定量の水素(H2)

を溶け込ませた水のこと。一般的に「水素水」

として知られている。

ppm パーツ・パー・ミリオン 液体の微量な濃度を示す単位。液体中の

水素濃度を「1ppm」とあらわす場合、

「1Lの水に1mgの水素が含まれている」

ことを表す。

choline コリン(ビタミンB4) 細胞膜を作る構成成分で、神経伝達物質

であるアセチルコリンの原料であり、

脂肪燃焼やDNA合成、神経細胞の働きの

円滑化に不可欠な栄養素。コリンが不足

すると、脂肪肝や胆石症などになる。

l-amino acid-defined 完全合成化lアミノ酸 完全合成化されたlアミノ酸。

人間の体を構成するアミノ酸はL型。

完全合成化:培養時の培地・基質などの

工程・材料から調製不可能な微量成分が

含まれる生物由来材料を排除し、全成分を

追跡調製可能な状態にすること。

アミノ酸 私たちの身体を構成するタンパク質の原料で、

生きるために欠かせない物質。

Primary hepatocytes 初代肝細胞 ヒトまたは動物の肝臓組織から直接採取

された細胞のこと。生体の状況を反映

しやすい。

palmitate パルミチン酸塩 様々な細胞株において脂肪形成、細胞の

脂肪変性を増進する成分。

パルミチン酸 人体において最も豊富な脂肪。細胞膜を

作り、皮脂として分泌し、栄養の体内循環

に必須で、脂肪酸全体の20-30%を占める。

lipid metabolism 脂質代謝 食事としてとった脂質、肝臓や腸で合成

される脂質は、血液の流れに乗って全身に

運ばれ、細胞膜やホルモンの材料や

エネルギー源として使われ、あまると肝臓に

戻ってきて再処理される。このように脂質が

使われるサイクルのこと。

in vitro ビトロ “試験管内の”という意味で、試験管や培養器

などの中で生物体から抽出した組織を用いて、

生体内と同様の環境を人工的に作り、

薬物の作用を調べる試験のことをいう。

動物個体を使った試験のように薬物の

吸収・蓄積・排泄が考慮されないため、

短時間で多くの作用について調べる

のに適している。

alanine aminotransferase (ALT) アラニンアミノ基転移酵素(GPT) 人体のほとんどの組織に含まれているが、

なかでも肝細胞への分布が圧倒的に

多い酵素。肝細胞の破壊の際に血中濃度

が上昇する。

aspartate aminotransferase (AST) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ 心臓の筋肉や骨格筋、肝臓に多く

含まれている酵素の一種。肝臓や心臓に

障害が起きると血中濃度が上昇する。

ASTとALT両方の数値が高いと、

急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝癌、

脂肪肝が考えられる。

inflammatory cytokines 炎症性サイトカイン TNF-αやIL-6等の、生体内の様々な

炎症症状を引き起こすサイトカインのこと。

細菌やウイルスが体に侵入した際にそれら

を撃退して体を守るが、炎症を強め

機能障害を起こしたり、細胞・組織を破壊

したりもする。マクロファージ、樹状細胞

から産生される。

サイトカイン 細胞間の情報伝達係で、免疫反応の調整を

行うタンパク質のこと。熱を出す、

炎症を起こす、血圧を上げるなど様々な

反応を引き起こし、身体に浸入した細菌や

ウイルス等の異物を排除しようとする。

fatty acid oxidation 脂肪酸酸化 脂肪酸が酵素反応により段階的に分解

する経路のこと。がんや非アルコール

性脂肪性肝炎(NASH)などの疾患に

おいて大きく変動する。

lipogenesis 脂質生合成 主に肝臓や脂肪組織で行われる脂肪の

代謝過程。脂肪酸とグリセロールを脂肪に

変換し、アセチルCoAをトリグリセリドに

変換して脂肪に貯蔵する。

脂肪酸 「脂質」の主要な構成要素。脂肪酸が

他の様々な形体の物質と結びつくことで

脂質を形成している。脂肪および脂肪酸は、

活動のエネルギー源、

人体の細胞膜・ホルモンなどの構成、

皮下脂肪として臓器や外部刺激

(寒さや物理刺激)からのバリア機能、

ビタミンA・D・E・K吸収の促進、

などの働きをする。

グリセロール 脂肪酸と一緒に脂肪の材料となり、

多くの代謝反応に関わる重要な物質。

アセチルCoA 生体内で糖質・脂質・アミノ酸の代謝や

脂肪酸の合成に関与する物質。

トリグリセリド 中性脂肪のこと。コレステロールと

同様に食事から取り入れられるだけ

でなく、肝臓でもつくられている。

その大部分は筋肉や心臓でのエネルギー源

になり、余ると皮下脂肪として貯えられ、

肥満の原因となる。

Lipopolysaccharide(LPS) リポ多糖 脂質及び多糖から構成される物質(糖脂質)。

マクロファージを活性化させ、免疫力を

高めてくれるが、免疫反応を過剰に

亢進してしまうと、連続的あるいは

同時多発的に重要臓器の機能不全を

引き起こしてしまう。

マクロファージ 生まれつき身体に備わっている免疫力

(自然免疫)を保つ物質。

身体に侵入した細菌などの異物を見つけ出して

食べ、身体を細菌感染から守る。

身体にダメージを与えるような大量の

細胞死を感知すると、炎症性サイトカインを

放出して炎症反応を引き起こす。

heme oxygenase-1 (HO-1) ヘムオキシゲナーゼ-1 ヘム分解を担う酵素。活性酸素種(ROS)や

重金属などに細胞がさらされると発現が

誘導され、抗酸化活性および細胞保護作用

を示す。

ヘム分解 DNAや脂質を損傷させる有害な酸化ストレス

を速やかに解消するための反応。

ヘモグロビンは「ヘム」という物質と

「グロビン」というタンパク質とが結合して

できており、酸素と結合するのがヘム。

酸化ストレスを解消するためにそのヘムを

分解代謝するヘムオキシゲナーゼ1が

極めて速やかに導入される。

Sirtuin 1 (Sirt1) サーチュイン1 老化を遅らせて長寿に働きかける

長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」の1種。

血糖値を下げるインスリンの分泌を促し、

糖や脂肪の代謝をよくし、神経細胞を

守り記憶や行動を制御するなど、

老化や寿命のコントロールに深く関与する。

adenosine monophosphate activated protein kinase (AMPK) AMP活性化プロテインキナーゼ 細胞レベル・個体レベルで影響を与える

『代謝』の中心的調節因子の一つ。

「代謝のマスタースイッチ」と呼ばれ、

細胞/生理学的レベルの代謝ストレスに

応答してエネルギーバランスを維持・回復

する役割を果たす。

peroxisome proliferator-activated receptor α (PPARα) ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α 糖・脂質代謝に関与する種々の標的遺伝子

を調節している転写因子。

peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPAR-γ) ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ 脂肪組織で選択的に発現している転写因子で、

脂肪細胞の分化と関連している。

mRNA メッセンジャーRNA 遺伝子の情報が蛋白質として発現される

過程で、情報の担体として合成される

RNAのこと。DNAからコピーした

遺伝情報を運ぶ。DNAからmRNAへ

コピーされるステップは「転写」と呼ばれる。

RNA(リボ核酸) DNA(遺伝情報)に従って必要なたんぱく質

を合成する大工の役割を担う核酸の一種。

細胞核の中でDNAからたんぱく質の情報を

受け取り、細胞質へ運ぶ。

タンパク質をコードする

messenger RNA(mRNA)と

タンパク質をコードしていない

non-coding RNA(ncRNA)に大別される。

apoptosis アポトーシス 細胞の自然死(細胞死)のこと。

危険な細胞の増殖を阻止し、細胞が構成

している組織をより良い状態に保つため、

細胞自体に組み込まれたプログラム。

interleukin 10 (IL-10)-independent pathway インターロイキン10(IL-10)非依存性経路 IL-10:抗炎症性サイトカインの代表。

サイトカインには珍しく、抑制性の性質

を持つ。

マクロファージなどの免疫細胞に働きかけ、

直接的に細胞の活性化を抑制したり

することで、免疫反応を沈静化させる。

IL-10非依存性経路:IL-10がなくても

生体機能が維持できる状態。