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論文29「人工心肺装置+水素ガスによる蘇生の効果」

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Hydrogen gas with extracorporeal cardiopulmonary resuscitation

improves survival after prolonged cardiac arrest in rats

人工心肺装置+水素ガスによる蘇生の効果

 

 

 

(10秒で読めるまとめ)

致命的な心停止を起こしたネズミに、人工心肺装置+水素ガスによる蘇生を行なった結果、水素が、蘇生中の脳の酸素状態を著しく改善して脳機能を回復させ、同時に臓器障害を抑制するという優れた神経・臓器保護効果を発揮し、生存率を大きく向上させた。

 

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

心停止後に人工心肺装置+水素ガスによる蘇生を行うと、生存率と脳機能が大きく改善することがわかった。

 

◆ポイント

·  コロナ禍で知られるようになったECMOなどの人工心肺装置は、究極的な生命

維持装置として「命を救うこと」にフォーカスしており、装置が誘発する過度の

酸化ストレスや炎症反応、血液凝固障害による体と脳へのダメージは避けられな

い。

·  「強力な抗酸化・抗炎症作用をもつ水素は、人工心肺装置によるダメージを

抑制して生存率を改善できる」という仮説を立て、長時間の心停止を起こした

ネズミに人工心肺装置+水素ガスによる蘇生を行い検証した。

·  4時間後の生存率は、水素ガスグループ(水素2% +酸素98%)で77.8%

(9匹中7匹)、プラセボグループ(酸素100%)で22.2%(9匹中2匹)

だった。

·  水素ガスで治療したすべてのネズミが脳波活動を回復したが、プラセボ

では回復が観察されなかった。

·  水素ガスグループでは、臓器障害の程度を示す値(シンデカン1)の増加

が抑制された。

 

 

 

(原文と翻訳)

Abstract

Background: Despite the benefits of extracorporeal cardiopulmonary resuscitation (ECPR) in cohorts of selected patients with cardiac arrest (CA), extracorporeal membrane oxygenation (ECMO) includes an artificial oxygenation membrane and circuits that contact the circulating blood and induce excessive oxidative stress and inflammatory responses, resulting in coagulopathy and endothelial cell damage. There is currently no pharmacological treatment that has been proven to improve outcomes after CA/ECPR. We aimed to test the hypothesis that administration of hydrogen gas (H2) combined with ECPR could improve outcomes after CA/ECPR in rats.

【背景・目的】臨床研究対象の心停止(CA)患者における体外循環式心肺蘇生法(ECPR)には利点もあるが、体外式膜型人工肺(ECMO)には、循環血液に接触して過度の酸化ストレスと炎症反応を誘発し、血液凝固障害と内皮細胞損傷をもたらす人工酸素化膜と回路が含まれている。現在、CA/ECPR後の転帰を改善することが証明されている薬理学的治療はない。この研究では、ECPRと組み合わせた水素ガス(H2)の投与が、ラットのCA/ECPR後の転帰を改善できるという仮説を検証することを目的とした。

 

Methods: Rats were subjected to 20 min of asphyxial CA and were resuscitated by ECPR. Mechanical ventilation (MV) was initiated at the beginning of ECPR. Animals were randomly assigned to the placebo or H2 gas treatment groups. The supplement gas was administered with O2 through the ECMO membrane and MV. Survival time, electroencephalography (EEG), brain functional status, and brain tissue oxygenation were measured. Changes in the plasma levels of syndecan-1 (a marker of endothelial damage), multiple cytokines, chemokines, and metabolites were also evaluated.

【方法】20分間の窒息による心停止を起こしたラットをECPRによって蘇生した。人工呼吸器(MV)はECPR開始時に始めた。無作為にプラセボ群または水素ガス治療群に割り当てた。補充ガスはECMO膜と人工呼吸器を介して酸素とともに投与した。生存時間、脳波、脳機能、脳組織の酸素化を測定した。シンデカン-1(内皮損傷のマーカー)、複数のサイトカイン、ケモカイン、および代謝産物の血漿レベルの変化も評価した。

 

Results: The survival rate at 4 h was 77.8% (7 out of 9) in the H2 group and 22.2% (2 out of 9) in the placebo group. The Kaplan-Meier analysis showed that H2 significantly improved the 4 h-survival endpoint (log-rank P = 0.025 vs. placebo). All animals treated with H2 regained EEG activity, whereas no recovery was observed in animals treated with placebo. H2 therapy markedly improved intra-resuscitation brain tissue oxygenation and prevented an increase in central venous pressure after ECPR. H2 attenuated an increase in syndecan-1 levels and enhanced an increase in interleukin-10, vascular endothelial growth factor, and leptin levels after ECPR. Metabolomics analysis identified significant changes at 2 h after CA/ECPR between the two groups, particularly in D-glutamine and D-glutamate metabolism.

【結果】4時間後の生存率は水素群で77.8%(9匹中7匹)、プラセボ群で22.2%(9匹中2匹)だった。カプラン・マイヤー分析は、水素が4時間生存評価を大幅に改善したことを示した(ログランクP=0.025対プラセボ)。水素で治療したすべての動物は脳波活動を回復したが、プラセボでは回復が観察されなかった。水素療法は蘇生中の脳組織の酸素化を著しく改善し、ECPR後の中心静脈圧の上昇を防いだ。また、シンデカン1値の増加を弱め、ECPR後のインターロイキン10、血管内皮増殖因子、レプチンの値の増加を促進した。メタボロミクス分析により、特にD-グルタミン酸とその代謝において、2つのグループ間でCA/ECPRの2時間後に有意な変化が確認された。

 

Conclusion: H2 therapy improved mortality in highly lethal CA rats rescued by ECPR and helped recover brain electrical activity. The underlying mechanism might be linked to protective effects against endothelial damage. Further studies are warranted to elucidate the mechanisms responsible for the beneficial effects of H2 on ischemia-reperfusion injury in critically ill patients who require ECMO support.

【結論】水素療法は、致死率の高いCAラットをECPRによって蘇生したときの死亡率を改善し、脳の電気的活動の回復を助けた。根底にあるメカニズムは、内皮損傷に対する保護効果に関連している可能性がある。ECMOを必要とする重症患者の虚血再灌流障害に対する水素の有益な効果のメカニズムを解明するために、さらなる研究が必要である。

 

Keywords: Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation体外循環式心肺蘇生法(ECPR); Extracorporeal membrane oxygenation体外式膜型人工肺(ECMO); Heart arrest心停止; Hydrogen水素; Ischemia reperfusion injury虚血再灌流障害.

 

© 2021. The Author(s).

 

Conflict of interest statement: The authors declare that they have no competing interests.

【利益相反】なし

 

 

英語 日本語 説明
extracorporeal cardiopulmonary resuscitation (ECPR) 体外循環式心肺蘇生法 体外循環式の人工心肺装置を用いた

心肺蘇生法のこと。通常の救命処置

で心拍が再開しない患者の心機能・

肺機能の両方を人工的に補助する。

血液に酸素を入れて循環させ、脳蘇

生の鍵となる脳血流を再開させる。

cohorts コホート 臨床試験または臨床研究の対象者の

集団のこと。一定の期間にわたって

観察が行われる。

cardiac arrest (CA) 心停止 心臓の活動が停止し、内臓、脳、

組織に血液と酸素がまわらなくなっ

た状態。心停止が起こって数分以内

なら蘇生する可能性があるが、時間

が経つほど可能性は低くなり、助か

っても脳に障害が残る可能性が高く

なる。

extracorporeal membrane oxygenation (ECMO) ECMO(エクモ)、体外式膜型人工肺 人工肺と機械ポンプを用いた人工心

肺装置。通常の人工呼吸器で対応で

きない重症患者に用いる。人工呼吸

器は肺に空気や酸素を送り換気を助

けるが、エクモは、体外に一度血液

を取り出し直接ガス交換をして体内

に戻す。体への負担が大きく数週間

が使用の限界となる。

artificial oxygenation membrane 人工酸素化膜(膜型人工肺) エクモのガス交換をする人工肺(膜型

人工肺)のこと。体内から取り出し人

工肺に送った血液を、膜を使用した

膜分離法によって酸素化し、血液ポン

プによって体内に送り戻す。

oxidative stress 酸化ストレス 体を傷つける活性酸素の産生が過剰

となり、それを消去する抗酸化能と

のバランスが崩れた状態。酸素が体

の中の細胞や組織などに結びつき、

酸化させ、有害なダメージが蓄積す

る。

inflammatory responses 炎症反応 何かの有害な刺激を受けたときにそ

れを取り除こうとして防御する反応

(自然免疫反応)。異物や死んでし

まった自分の細胞を排除して生体の

恒常性を保とうとする反応。腫れる、

赤くなる、発熱、痛みなどが起こる。

coagulopathy 血液凝固障害 血液を固める(凝固する)一連の働

きに異常がある状態のこと。

endothelial cell damage 内皮細胞障害 酸化ストレスが増加すると血管内皮

細胞が障害され、一酸化窒素(血管拡

張作用を持つガス)の産生が低下し、

血管収縮や機能低下、剥離などの障

害が起こり、炎症、血栓、血液凝固

促進、動脈硬化、高血圧なども起こる。

内皮細胞 全身をめぐる血管の最内層にある細

胞。血管壁の収縮・弛緩(血管の硬

さ・やわらかさ)、血管壁への炎症

細胞の接着、血管透過性、凝固・線

溶系の調節などを行う。血管の健康

状態を維持する非常に重要な役割を

担う。

outcomes 転帰 疾患・怪我などの治療における症状の

経過や結果。病状が進行して行きつい

た結果。

Pharmacology 薬理学 その薬物が生体に対してどのように作

用し、どのような効果を現すのかを明

らかにする学問。薬物と生体との相互

作用についての研究。

asphyxial CA 窒息による心停止 呼吸が停止すること(窒息)により血

液が酸素化されないため、短時間のう

ちに脳の働きが止まり、心臓などすべ

ての臓器を構成する細胞の活動が停止

した状態。

Mechanical ventilation (MV) 人工呼吸器 人工呼吸(空気を肺に出し入れする)

を自動的に行う医療機器。空気中の酸

素(21%)より高い濃度の酸素を肺に

送ることや、通常より高い圧をかける

ことで肺を拡げて呼吸を助ける役割を

する。

placebo プラセボ この研究においては、100%酸素ガス

を使用した人工呼吸器による蘇生

(ECPR)をプラセボ(対照)グル

ープとした。

electroencephalography (EEG) 脳波、脳は検査 活動している脳の頭皮上の電気現象

(微細な電圧変化)を脳波計に増幅記

録したもの。脳波検査は、脳の異常に

よる意識障害の診断、てんかんの診断

、脳死判定の目的で行われる。

brain tissue oxygenation 脳組織の酸素化 酸素が脳組織の血液に取り込まれるこ

と。循環不全や呼吸不全などにより十

分な酸素供給ができなくなると、脳に

障害をきたす。

syndecan-1 シンデカン-1 内皮損傷のマーカー。臓器障害の発生

過程で起こる血管内障害を反映する。

グリコカリックスの構成成分で、グリ

コカリックスが障害されるとシンデカ

ン-1が血管内皮から剥離し血中へ放出

される。血液中のシンデカン-1濃度が

上がると死亡率も上がる。

グリコカリックス 血流がスムーズに流れるために血管内

腔表面をコーティング(保護)してい

る糖タンパク質。炎症によりこのコー

ティングが剝がれると血栓を生じ、循

環が障害され、臓器障害に至る。

cytokines サイトカイン 細胞間の情報伝達係で、免疫反応の調

整を行うタンパク質。熱を出す、炎症

を起こす、血圧を上げるなど様々な反

応を引き起こし、身体に浸入した細菌

やウイルス等の異物を排除しようとす

る。

chemokines ケモカイン サイトカインの一種で、白血球の遊走

を誘導するものを指す。細胞から放出

され、細胞間の相互作用を成立させる

仲介人の役割をする。

遊走 細胞などが個体内のある位置から別の

位置に移動すること。

plasma levels of metabolites 代謝物の血漿レベル 血液中の代謝物はヒトの体内動態(健

康状態)に関係しているものが多く、

バイオマーカーとして利用される。

Kaplan-Meier analysis カプラン・マイヤー分析 生存率を評価する分析方法。観察期間

において、対象患者のうち生存してい

る人がどれくらいかを確率で計算した

もの。

log-rank ログランク(検定) 2グループ間の生存率が同じかどうか

を比較する手法。カプランマイヤー曲

線におけるP値。

P値 確率(Probability)の実現値の略称。

設定した仮説が正しいかを判定する

ための基準となる値。

central venous pressure 中心静脈圧(CVP) 心臓の右心房近くの大静脈の血圧の

こと。心臓に戻る血液の量と、血液

を動脈系に送り返す心臓の能力を反

映する。患者が脱水状態かどうかや、

心臓がどの程度機能しているかを推

定するために測定される。

右心房 心臓には4つの部屋があるが、その

内全身で使われた血液が静脈を介し

て戻ってくる場所。ポンプ機能が低

下する(右心不全)と、全身からの

血液が心臓に戻ってこられず全身に

血液が鬱滞してしまう。

interleukin-10 インターロイキン10(IL-10) 抗炎症性サイトカインの代表。サイ

トカインには珍しく、抑制性の性質

を持つ。T細胞やマクロファージと

いった免疫細胞に働きかけ、免疫反

応を沈静化させる。

vascular endothelial growth factor 血管内皮細胞増殖因子(VEGF) 血管新生を促すタンパク質。細胞や

組織が低酸素状態になるとVEGFが増

加し、新しい血管が作られ、酸素が

供給される。

leptin レプチン 脂肪細胞から分泌されるホルモンで、

食欲を抑え、エネルギー消費を促進

する体重調節(抗肥満)作用がある。

他にも、糖脂質代謝・性腺機能・血

圧調節などの多彩な生理作用をもつ。

Metabolomics analysis メタボロミクス分析 生命活動によって生じる代謝物を網

羅的に検出し、その結果を分析し、

生命現象を明らかにしようとする一

連の技術・研究のこと。

D-glutamine D-グルタミン酸 脳内で新たに合成され、神経伝達物質

として働くアミノ酸の一種。中枢神経

系の殆どの早い興奮性伝達物質を担っ

ている。過剰な活性は神経細胞死を引

き起こす。

ischemia-reperfusion injury 虚血再灌流障害 虚血状態にある臓器に血流(酸素)が

再開した際、毒性物質(活性酸素種)

が大量に発生し、損傷を受けた組織で

細胞死が起きることで、かえって障害

が増悪する状態。