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論文47「熱中症に対する水素の効果」

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Inhalation of 2% Hydrogen Improves Survival Rate and Attenuates Shedding of Vascular Endothelial Glycocalyx in Rats with Heat Stroke

熱中症に対する水素の効果

 

 

 

(10秒で読めるまとめ)

熱中症のラットに2%水素ガスを吸入させた結果、水素により炎症反応と酸化ストレスが効果的に抑制され、血管壁も保護され、熱ストレスによる腸の損傷が顕著に軽減し、生存率が大幅に上がった。

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

 2%水素ガスの吸入は、熱中症の病態を包括的に改善し、生存率を改善する。

◆ポイント

·  重症熱中症の死亡率は高く、その病態は酸化的ダメージ、過剰な炎症反応、

血液の凝固障害(異常出血や血栓リスクが増加した状態)と密接に関連して

おり、これらが臓器機能障害と死亡につながっている。

·  ラットの熱中症モデルに水素ガス(2%、4%)を吸わせ、水素ガスを吸わ

なかった熱中症モデルと血管・血液・腸の状態、生存率を比較した。

·  2%水素ガスグループにおいて、酸化ストレスの値(MDA)、炎症反応の

値(エンドトキシン、TNF-α)、血管内皮障害の値(SDC-1)がすべて低下

した。(論文本文参照)

·  2%水素ガスグループでは、血管壁の機能と環境を保護する層(EGCX)

の厚さが維持された。

·  300分以内の生存率は、2%水素グループ(71.4%)、4%水素グループ

14.3%)、熱中症グループ(0%)と、2%水素グループで顕著に高かった。

(論文本文参照)

 

 

(原文と翻訳

Abstract

Heat stroke is characterized by excessive oxidative stress and inflammatory responses, both of which are implicated in vascular endothelial glycocalyx shedding and heat-stroke mortality. Although molecular hydrogen has antioxidation and anti-inflammatory potency, its effect on the vascular endothelial glycocalyx in heat stroke has not been examined.

【背景】熱中症は、過度の酸化ストレスと炎症反応を特徴とし、どちらも血管内皮グリコカリックス(EGCX)の脱落と熱中症による死亡率に関与している。水素分子には抗酸化作用と抗炎症作用があるが、熱中症における血管内皮グリコカリックスへの影響は調べられていない。

 

Therefore, the aim of this study was to investigate the influence of hydrogen inhalation on the survival and thickness of the vascular endothelial glycocalyx of rats subjected to heat stroke.

【目的】熱中症にさらされたラットの生存率と血管内皮グリコカリックスの厚さに対する水素吸入の影響を調査すること。

 

Altogether, 98 Wistar rats were assigned to the experiments. A heat-controlled chamber set at 40°C temperature and 60% humidity was used to induce heat stroke. After preparation, the anesthetized rats that underwent the heating process were subjected to an hour of stabilization in which 0%, 2%, or 4% hydrogen gas was inhaled and maintained until the experiment ended. In addition to survival rate assessments, blood samples and left ventricles were collected to evaluate the thickness of the vascular endothelial glycocalyx and relevant biomarkers.

【方法】合計98匹のラットが実験に割り当てられた。温度40℃、湿度60%に設定された熱調節室を使用して熱中症を誘発した。準備後、加熱処理を受けて麻酔をされたラットは、0%、2%、4%の水素ガスを吸入しながら、実験が終了するまで1時間安静にした。生存率の評価に加え、血液サンプルと左心室を採取して、血管内皮グリコカリックスの厚さと関連するバイオマーカーも評価した。

 

The results showed that 2% hydrogen gas significantly improved survival in the heat-stroked rats and partially preserved the thickness of the endothelial glycocalyx. In addition, serum levels of endotoxin, syndecan-1, malondialdehyde, and tumor necrosis factor-α decreased, whereas superoxide dismutase levels increased, indicating that inhalation of 2% hydrogen attenuated the damage to the vascular endothelial glycocalyx through its antioxidative and anti-inflammatory effects.

【結果】2%水素ガスが熱中症ラットの生存率を大幅に改善し、内皮グリコカリックスの厚さを部分的に保持したことを示している。さらに、エンドトキシン、シンデカン-1、MDA、および腫瘍壊死因子-αの血清レベルが減少し、一方でSOD値が増加した。これは、2%水素の吸入がその抗酸化および抗炎症効果を通じて、内皮グリコカリックスへのダメージを軽減したことを示している。

 

Copyright © 2021 by the Shock Society.

 

Conflict of interest statement: The authors report no conflicts of interest.

【利益相反】なし

 

 

 

英語 日本語 説明
Heat stroke 熱中症(熱射病) 40℃を超える体温と混乱を生じさせる最重

度の熱中症のこと。脳、肝、腎などの多臓

器不全が起こり、血液凝固異常(最重度)

が起こる。致死率が高く、中枢神経障害や

倦怠感やめまい、頭痛が後遺症として残る。

vascular endothelial glycocalyx 血管内皮グリコカリックス(EGCX) 血管内皮の内腔側を覆う毛のような極め

て薄い層のこと。血管内皮細胞と血液と

の間に存在し、血液中の液体成分が血管

外に漏れ出すのを防ぎ、血液のスムーズ

な流れを助ける。抜け落ちると、血流が

乱れ、血管内皮が傷んでいく。

血管内皮 血管の内表面を裏打ちする一層の細胞群。

たえず循環する血液と接している。表面

にはグリコカリックスという毛のような

ものが生えていて、それがきれいに生え

そろっていれば血液はサラサラとスムー

ズに流れる。

血管内皮障害 伸び縮みして血液量や血圧を一定にした

り、動脈硬化を防いだり、血液が固まら

ないように調節している血管内皮細胞の

機能が低下すること。動脈硬化の進展

、さらにはプラーク(粥腫)の不安定化

を引き起こします。

Wistar rats ウィスター系ラット 性質温順で取扱いやすく、自然発生腫瘍

の発生率が低く、一般薬理試験等に広く

使用されるラット系統。

chamber チャンバー 空気の混合や分岐などで気流が乱れる場

所に設置することで空気の乱れを少なく

し、排気口や吹出口に安定した空気を送

るための箱状の装置。

left ventricles 左心室 大動脈から全身に血液を送る心臓のメイ

ンポンプのこと。強力な収縮によって大

動脈弁という弁(一方通行のドア)を通

って大動脈につながり全身に血液を送っ

ている。

biomarkers バイオマーカー ある疾病の存在や進行度をその濃度に反

映し、血液中に測定されるタンパク質等

の物質を指す用語。

endotoxin エンドトキシン 細菌が破壊または溶解したときに菌体の

細胞壁などから出現してくる毒素。内毒

素、菌体内毒素ともいう。発熱、血糖低

下など多くの活性を示す。

syndecan-1 シンデカン-1 細胞表面に存在するタンパク質で、血管

内皮グリコカリックス(EGCX)の主要

な構成要素の一つ。重症患者の臓器障害

を反映するバイオマーカー。EGCXの状

態を評価し、血管内皮の健康や疾患の進

行の評価に使われる。

malondialdehyde マロンジアルデヒド(MDA) 脂質過酸化(他の原子・分子を酸化させ、

細胞に損傷を与える反応)物の分解物と

して生成される化合物。細胞内での酸化

ストレスのバイオマーカーとして測定さ

れる。

tumor necrosis factor-α 腫瘍壊死因子-α(TNF-α) サイトカインの一種。言葉のとおり不要

な細胞を排除したり腫瘍をやっつけたり

するが、大量に産生されると腫れや痛み

などの炎症を引き起こす。よく炎症反応

のマーカーとして測定される。

サイトカイン 細胞間の情報伝達係で、免疫反応の調整

を行うタンパク質のこと。熱を出す、

炎症を起こす、血圧を上げるなど様々

な反応を引き起こし、身体に浸入した

細菌やウイルス等の異物を排除しよう

とする。

superoxide dismutase スーパーオキシドジスムターゼ(SOD) 細胞内に発生した活性酸素を除去する

抗酸化酵素。酸化ストレスから体を守

り、老化・がん・生活習慣病・脳卒中

・心疾患などの活性酸素が原因で起こ

る病気を予防する。