犬の皮膚の傷に対する水素水を飲むことの治療効果
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34822637/
PMID: 34822637
The Therapeutic Effects of Oral Intake
of Hydrogen Rich Water on Cutaneous Wound Healing in Dogs
犬の皮膚の傷に対する水素水を飲むことの治療効果
(10秒で読めるまとめ)
皮膚に傷がある犬に1日3回水素水を飲ませつづけ、傷が治るまでの経過を調べた結果、水素により炎症反応が軽減され、傷口を修復する働きが加速し、さらに、傷口に再生された表皮の厚みが抑えられ、傷がよりキレイに早く治った。
(1分で読めるまとめ)
◆結論
水素水を継続して飲むことで、皮膚の傷口の修復が加速し、傷がよりキレイに早く治ることがわかった。
◆ポイント
· 皮膚に同じ形・大きさの傷がある犬を、1日3回水素水または水を飲ませる
グループに分け、傷口の組織中の炎症反応や酸化ストレスの値、傷を治そう とする因子の発現量を測定しながら、治癒までの経過を比較した。 |
· 水素水グループでは、酸化ストレスを抑え細胞を保護する因子の数値が
はっきりと上がり、炎症反応が軽減し、傷の治癒率が上がった。 |
· また、傷口において、水グループよりも多くの新しい血管が作られ、
上皮化(表皮を再生して傷口をふさぐこと)が速まった。 |
· さらに、傷口に新しく形成された表皮(一番外側の膜)の厚さが
明らかに薄かった。 |
(原文と翻訳)
Abstract
This study explored the effects of drinking Hydrogen-rich water (HRW) on skin wound healing in dogs.
【目的】水素水を飲むことで起こる皮膚の傷への治癒効果を、犬で調査した。
Eight circular wounds were analyzed in each dog. The experimental group was treated with HRW thrice daily, while the control group was provided with distilled water (DW). The wound tissues of dogs were examined histopathologically. The fibroblasts, inflammatory cell infiltration, the average number of new blood vessels, and the level of malondialdehyde (MDA) and superoxide dismutase (SOD) activity in the skin homogenate of the wound was measured using the corresponding kits. The expressions of Nrf-2, HO-1, NQO-1, VEGF, and PDGF were measured using the real-time fluorescence quantitative method.
【方法】1日3回水素水または水を飲ませるグループに分け、1匹の犬ごとに8つの円形の傷を分析した。犬の傷の組織を病理学的に調べるため、線維芽細胞、炎症性細胞浸潤、新しい血管の平均数、および、皮膚のホモジネート中のマロンジアルデヒド(MDA)とスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性値を測定した。Nrf-2、HO-1、NQO-1、VEGF、PDGFの発現は、リアルタイム蛍光定量法で測定した。
We observed that HRW wounds showed an increased rate of wound healing, and a faster average healing time compared with DW. Histopathology showed that in the HRW group, the average thickness of the epidermis was significantly lower than the DW group. The average number of blood vessels in the HRW group was higher than the DW group. The MDA levels were higher in the DW group than in the HRW group, but the SOD levels were higher in the HRW group than in the DW group. The results of qRT-PCR showed that the expression of each gene was significantly different between the two groups.
【結果】水素水を飲ませた犬は、水を飲ませた犬と比較して傷の治癒率が高まり、治癒にかかる時間の平均もより短くなることがわかった。病理組織像を見ると、水素水グループでは、水グループよりも表皮の厚さの平均が明らかに薄いことがわかり、平均血管数は多かった。MDA値は水素水グループよりも水グループの方が高く、SOD値は逆となった。定量的逆転写PCR検査の結果は、各遺伝子の発現が2つのグループ間でかなり異なることを示した(詳細は論文中の図表参照)。
HRW treatment promoted skin wound healing in dogs, accelerated wound epithelization, reduced inflammatory reaction, stimulated the expression of cytokines related to wound healing, and shortened wound healing time.
【結論】水素水治療は、犬の皮膚の傷の治りを促進し、上皮化を加速させ、炎症反応を軽減し、傷の治癒に関係するサイトカインの発現を刺激し、治癒にかかる時間を短縮した。
Keywords: antioxidant酸化防止剤; dogs犬; hydrogen-rich water水素水; wound healing創傷治癒.
Conflict of interest statement:The authors declare that they have no competing interests.
【利益相反】なし
英語 | 日本名 | 説明 |
Hydrogen-rich water (HRW) | 水素水 | その名の通り、なかに一定量の水素(H2)
を溶け込ませた水のこと。 一般的に「水素水」として知られている。 |
distilled water (DW) | 蒸留水 | 蒸留によって不純物が取り除かれた、純度
の高い水のこと。 |
fibroblasts | 線維芽細胞 | 皮膚の大部分を占める「真皮」の層に
存在し、肌の若々しさを保つ美容成分を 作り出している細胞。健康的で美しい肌 を保つに欠かせない存在。 |
inflammatory cell infiltration | 炎症性細胞浸潤 | 炎症によって細胞間の透過性が上がり、
血管から白血球が滲み出ること。生体の 防御反応。炎症の急性期には好中球、 慢性期にはリンパ球や形質細胞が多くなる など、炎症の経過に伴い浸潤する細胞の 構成が変化する。 |
new blood vessels | 新生血管 | 創傷治癒の過程で組織が再生されると、
これに応じて毛細血管網(新生血管)が 形成され、積極的に創傷治癒に参加する。 |
malondialdehyde (MDA) | マロンジアルデヒド | 脂質過酸化物の分解物として生成される
化合物であるため、脂質過酸化の主要な マーカーとして測定される物質。 タンパク質変性やDNA損傷を引き起こす ため、がんや糖尿病など様々な疾患研究に おいて測定対象とされている。 |
脂質過酸化 | 脂質の酸化的分解反応のこと。
フリーラジカルが細胞膜中の脂質から電子 を奪い、結果として細胞に損傷を与える 過程のこと。 |
|
フリーラジカル | 偶数個必要な電子を奇数個しかもっていない
ため不安定になっている原子・分子のこと。 他の原子・分子から電子を奪い酸化させる。 |
|
superoxide dismutase (SOD) | スーパーオキシドジスムターゼ | 細胞内に発生した活性酸素を除去する
抗酸化酵素。 酸化ストレスから体を守り、 老化・がん・生活習慣病・脳卒中・心疾患 などの活性酸素が原因で起こる病気を 予防する。 |
homogenate | ホモジネート | 新鮮な組織と細胞の機械的な微小破壊
(すりつぶして混ぜる)で作られる 混合物(懸濁液)のこと。細胞構成要素の 働きを調べる目的で使われる。 |
Nrf-2(NF-E2-related factor 2) | 転写因子Nrf2 | ストレス防御遺伝子のスイッチをONに
する転写因子。酸化ストレスに対する 生体防御機構として、遺伝子群を活性化 する重要な役割を果たす。 |
酸化ストレス | 活性酸素が身体を酸化させようとする
力のこと。 皮膚の物理的ストレスが酸化ストレスを 高め、炎症や痒みを引き起こす。 |
|
活性酸素 | ほかの物質を酸化させる(サビさせる)
力が非常に強い酸素。 呼吸で取り入れる酸素のうち約2%が 活性酸素になり、その強い殺菌力で体の中 に入ってきた細菌やウイルスを撃退するが、 増えすぎると正常な細胞や遺伝子も 攻撃(酸化)する。 |
|
HO-1(Heme Oxygenase-1) | ヘムオキシゲナーゼ1 | 熱や酸化ストレス,炎症性サイトカイン
などで発現が誘導されるタンパク質。 抗酸化活性および細胞保護作用があり、 酸化ストレスから細胞を守る。 |
NQO-1 | キノンオキシドレダクターゼ1 | 酸化還元酵素であり、他の分子の還元を
触媒する多機能タンパク質。生体異物解毒 および酸化還元バランスにおいて 役割を果たす。 |
VEGF(vascular endothelial growth factor) | 血管内皮細胞増殖因子 | 「新生血管を作れ」というシグナルを
送る代表的な因子。細胞や組織が 低酸素状態になると増加し、新しい血管 が作られ、酸素が供給される。 |
PDGF(Platelet-Derived Growth Factor) | 血小板由来成長因子 | 主に間葉系細胞の移動や増殖などに関与
する増殖因子。リガンド特異的活性化を 介して細胞の増殖、分化、遊走、 生存を制御する。 |
間葉系細胞 | 成体内に存在する幹細胞(ステムセル)
の一つで、中胚葉由来の組織である 骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化する 能力をもつ細胞。 |
|
幹細胞(ステムセル) | さまざまな細胞のもとになる母細胞。
自分と同じ幹細胞を作る能力と、 体を作るさまざまな細胞に分化する 能力とをあわせもち、私たちの体を 作り出す。 |
|
中胚葉 | 動物の発生初期に区別される細胞群の
名称。 外胚葉(表皮や中枢神経系・感覚器官 などに発達する細胞群)、内胚葉(消化管 の主要部分やその付属腺、呼吸器などを 形成する細胞群)の間を埋めるように 発達し、骨格・筋肉・循環器・生殖器 などに分化する。 |
|
リガンド | 特定の受容体(レセプタ)に特異的に結合
する分子。標的タンパク質の結合部位 (受容体)に結合することで様々な反応 を誘発するシグナルを生成する。 |
|
real-time fluorescence quantitative method | リアルタイム蛍光定量法 | 物質のもつ蛍光特性を利用して、その物質
の中に含まれる成分の量を求めること。 |
epidermis | 表皮 | 肌(皮膚)の一番外側にある、厚さ
平均約0.2ミリのとても薄い膜。外部からの 異物の侵入や体の水分の蒸散を防ぐバリア として、内部を保護している。 |
qRT-PCR(RT-qPCR) | 定量的逆転写PCR | ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の産物を
測定するテクノロジー。 遺伝子発現量(mRNA量)の測定などに 使われる。 |
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR) | 遺伝子発現解析、
ジェノタイピング(遺伝子型判定)、 シーケンシング(DNA構成・配列解析)、 突然変異誘発などの幅広い用途に利用 される反応。 |
|
epithelization | 上皮化
(再上皮化) |
欠損した皮膚や粘膜が上皮(表皮や
粘膜上皮)で再度おおわれること。 創傷の治癒過程では、肉芽組織が形成 された後、表皮細胞が遊離(移動)・増殖 して再生上皮が形成される。 |
cytokines | サイトカイン | 細胞間の情報伝達係で、免疫反応の調整
を行うタンパク質のこと。 熱を出す、炎症を起こす、血圧を上げる など様々な反応を引き起こし、身体に 浸入した細菌やウイルス等の異物を排除 しようとする。 |