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論文6

https://ribiyoushi-bunkakai.h2-therapy.com/join/wp-content/uploads/2022/09/論文6.pdf

 

 

 

Hydrogen gas inhalation improves delayed brain injury

by alleviating early brain injury after experimental subarachnoid hemorrhage

水素ガス吸入はくも膜下出血後の脳損傷を抑制し後遺症や予後を改善する

 

 

 

(10秒で読めるまとめ)

ヒトのくも膜下出血を再現したネズミに水素ガスを吸入させ、神経細胞のダメージの程度を調べた結果、水素ガス吸入により、早期の脳損傷(脳浮腫、神経細胞死など)が抑えられ、神経機能が明らかに持ちなおし、後遺症や予後が改善した。

 

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

水素ガスを吸うと、くも膜下出血後に起こる神経細胞死などの脳損傷が抑制され、後遺症や予後が改善する。

◆ポイント

·   くも膜下出血は死亡率が高い脳の病気で、一命を取りとめたとしても言語障害

や体のマヒなどの後遺症が残ることが多く、その後の生活の質が著しく下がる

(予後不良)。

·   くも膜下出血の予後に重大な影響を与える脳障害(DBI)への水素の効果を

調べるため、ネズミに人工的なくも膜下出血を起こし、発症0、1日目に

水素ガスを吸わせるグループと、そうでないグループとに分けて、病状の経過

を比較した。

·   水素ガスグループでは、くも膜下出血後に起こる脳浮腫や神経細胞死が抑制

され、発症3、7日目の神経機能が明らかに改善された。

·   水素ガス吸入による有害な影響は見られなかった。

(同論文の日本語要旨より)

 

 

 

(原文と翻訳)

Abstract

Molecular hydrogen (H2) protect neurons against reactive oxygen species and ameliorates early brain injury (EBI) after subarachnoid hemorrhage (SAH). This study investigated the effect of H2 on delayed brain injury (DBI) using the rat SAH + unilateral common carotid artery occlusion (UCCAO) model with the endovascular perforation method.

【背景・目的】水素が、活性酸素から神経細胞を保護し、くも膜下出血による早期脳損傷(EBI)を改善することはすでに知られている。この研究では、血管内穿孔法と一側総頸動脈結紮(UCCAO)により人工的にくも膜下出血を起こしたネズミを使用して、水素ガス吸入の遅発性脳障害(DBI)への効果について調査した。

 

1.3% H2 gas (1.3% hydrogen premixed with 30% oxygen and balanced nitrogen) inhalation was performed on days 0 and 1, starting from anesthesia induction and continuing for 2 h on day 0, and starting from anesthesia induction and continuing for 30 min on day 1. EBI was assessed on the basis of brain edema, expression of S100 calcium-binding protein B (S100B), and phosphorylation of C-Jun N-terminal kinase on day 2, and neurological deficits on day 3. Reactive astrogliosis and severity of cerebral vasospasm (CV) were assessed on days 3 and 7. DBI was assessed on the basis of neurological deficits and neuronal cell death on day 7.

【方法】水素ガス(1.3%水素+30%酸素+68.7%窒素)吸入を発症0日目と1日目に行った。両日とも麻酔導入から開始して、0日目は2時間、1日目は30分間吸入させた。早期脳損傷(EBI)の程度は、2日目における脳浮腫の程度とS100B発現量、C-Jun N末端キナーゼのリン酸化量、3日目における神経障害に基づいて評価した。反応性アストログリオーシスと脳血管攣縮(CV)の重症度は、3日目と7日目に評価した。遅発性脳障害(DBI)は、7日目における神経障害と神経細胞死に基づいて評価した。

 

EBI, reactive astrogliosis, and DBI were ameliorated in the H2 group compared with the control group. CV showed no significant improvement between the control and H2 groups. (論文中の図表より:Body weight loss, neurological scores, and brain edema were significantly improved with H2 gas inhalation despite hypoperfusion.)

【結果】早期脳損傷(EBI)、反応性アストログリオーシス、および遅発性脳障害(DBI)は、対照グループと比較して水素グループで改善された。脳血管攣縮(CV)は、対照グループと水素グループどちらにおいても明らかな改善はなかった。(論文中の図表より:水素グループでは、脳の血流が低下しているにも関わらず、体重減少率・神経機能・脳浮腫が明らかに改善された。)

 

This study demonstrated that H2 gas inhalation ameliorated DBI by reducing EBI without improving CV in the rat SAH + UCCAO model.

【結論】水素ガス吸入で早期脳損傷(EBI)が抑制されることにより、脳血管攣縮(CV)を悪化させずに遅発性脳障害(DBI)と予後を改善することがわかった。

 

Conflict of interest statementThe authors declare no competing interests.

【利益相反】なし

 

 

英語 日本名 説明
neurons 神経細胞(ニューロン) 脳(神経系)を構成する基本となる細胞。

情報処理と伝播能力において特に

優れている。

遠く離れた細胞間で情報を伝えることが

可能で、そのためにとても長い突起

(軸索)を持っている。

reactive oxygen 活性酸素 呼吸によって体内に取り込まれた酸素の

一部が、通常よりも活性化された状態。

体内で発生して細胞などにダメージを

与え、身体を酸化させてしまう。

delayed brain injury (DBI) 遅発性脳障害 くも膜下出血発症数日~2週間で発生・

進行する脳の障害のこと。

症状として、慢性的な頭痛や平衡感覚障害、

抑うつ傾向や性格の変化、短期記憶障害や

認知症、体のふるえなどがある。

early brain injury (EBI) 早期脳損傷 くも膜下出血発症後72時間以内におこる

期の脳障害のこと。

広範囲の脳虚血や一部脳梗塞により

意識レベルの低下・消失や脳浮腫、

脳神経細胞死を誘発する。

subarachnoid hemorrhage (SAH) くも膜下出血 脳の太い血管にできたこぶが破れ、

くも膜下腔に出血する病気。

死亡率が約45%と高く、約30%は一命を

取りとめてもマヒや言語障害などの

後遺障害が残り、自立した生活が困難に

なることが多い。

発症数日~2 週間に出現する遅発性脳障害が、

予後に重大な影響を与える。

くも膜下腔 脳と脳を包んでいるくも膜の間の隙間の

ことで、脳脊髄液で満たされている。

unilateral common carotid artery occlusion (UCCAO) 一側総頸動脈結紮 気管や食道の外側を上へ向かって進む

左右一対の動脈のうち、片側のみを

しばって血の流れを止めること。

endovascular perforation method 血管内穿孔(せんこう)法 血管に穴をあけ、出血を生じさせる措置。
brain edema 脳浮腫 脳組織の中に含まれる水分量が

増加した状態。

尿毒症、肝硬変などの全身性疾患や、

脳出血、脳腫瘍、脳挫傷などの脳組織の

病気の時に見られる。意識障害、痙攣など

を起こし死に至ることが多い。

S100 calcium-binding protein B (S100B) S100カルシウム結合タンパク質B アストロサイトに特異的に発現する

カルシウム結合タンパク質。

神経活動の上昇に伴って分泌され、

アストロサイトからニューロンへの

シグナル伝達物資として働き、脳内で

神経活動を調節する。

C-Jun N-terminal kinase C-JunN末端キナーゼ サイトカイン、紫外線照射、熱ショック、

浸透圧ショックなどのストレス刺激に

応答するタンパク質。T細胞の分化や

アポトーシス(細胞死)に関与する。

phosphorylation リン酸化 タンパク質の機能や活性の調節を行う

化学反応のこと。

T細胞 血液中の白血球のうちリンパ球と呼ばれる

細胞の一種。

身体を異物から守る機構(免疫応答)の

司令塔となる大切な細胞集団。

Reactive astrogliosis 反応性アストログリオーシス 中枢神経(脳と脊椎)の損傷により、

脊髄に豊富に存在する正常な

アストロサイトを「反応性アストロサイト」

へと変化させ,反応性アストロサイトは

最終的に軸索(ニューロンの長い突起部分)

の再生や機能の回復を阻害する

「瘢痕形成アストロサイト」になる。

この連続的な変化を

「反応性アストログリオーシス」という。

アストロサイト グリア細胞のなかで最も数が多い細胞。

細胞体からスポンジのように複雑な形の

を伸ばして、脳の空間を満たしている星状

の細胞。神経細胞に栄養を与え、

過剰なイオンや神経伝達物質を速やかに

除去することで、神経細胞の生存と

働きを助ける。

グリア細胞 脳は、ニューロン、グリア細胞、

血管から構成されており、

中でもグリア細胞はヒトの脳細胞の

半数以上を占めている。脳内環境の維持と

脳内の代謝や細胞外環境の維持をする。

軸索 神経細胞(ニューロン)の長い突起部分。

神経の興奮を伝える役目がある。

瘢痕形成アストロサイト 中枢神経系(CNS)の損傷後に形成される

アストロサイト。

軸索(ニューロンの長い突起部分)の再生

や機能の回復を阻害する。

cerebral vasospasm (CV) 脳血管攣(れん)縮 くも膜下出血が引き金となり、

出血から4~14日後頃に脳の栄養血管が

徐々に糸のように細くなる現象のこと。

このために脳梗塞が続発し手足のまひや

意識障害が起こる。くも膜下出血患者の

約1/3に起こり、そのまま後遺症となる。

neurological deficits 神経障害 意識・認知機能・高次脳機能・

精神症状等の神経心理学的所見も含め、

脳神経系、運動系、感覚系、反射、

自律神経系などの「神経と関わる機能」

の欠損。

neuronal cell death 神経細胞死 栄養や酸素が足りずに、神経細胞が

死ぬこと。

虚血(栄養や酸素不足で死ぬ)、老化、

ストレスなどにより、栄養や酸素が行き

届かなくなったり、細胞が過剰に興奮

したりして死んでしまう。

hypoperfusion 低灌流(ていかんりゅう)、血流低下 臓器の血流が低下し血液が届きにくく

なっている状態。

脳の血流が悪化すると、意識状態が

悪化する。