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論文52「新たな早産管理法:水素の利用」

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Molecular hydrogen has a positive impact on pregnancy maintenance through enhancement of mitochondrial function and immunomodulatory effects on T cells

新たな早産管理法:水素の利用

 

 

(10秒で読めるまとめ)

水素の妊娠との関係や早産に対する効果について、妊娠中の女性や実験動物を用いて調べた結果、早産女性の母体では水素量が少ないことと、水素投与により早産が予防されることが分かり、早産予測のバイオマーカー/早産管理の臨床ツールとして、水素が優れた結果を出した。

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

 水素は、その免疫調整作用により妊婦の早産を予防する。

◆ポイント

·  胎児は母体にとって半異物のため、正常な妊娠の維持には適切な免疫寛容

(胎児を誤って攻撃するのを防ぐこと=T細胞の適切なバランス)が必須で

あり、T細胞の分化誘導に大きな影響を与える腸内細菌叢(腸内の微生物の

集合体)は、生体内唯一の水素産生源である。

·  T細胞活性化物質(antiCD3)を投与した早産モデルマウスにおいて、水素

の体内投与により炎症反応が調節され、T細胞の活性化による早産が軽減

された。

·  水素は、ヒトT細胞においてミトコンドリア機能を調節し、免疫調節作用

を発揮した。

·  早産女性の母体における水素の産生量は、有意に低かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(原文と翻訳)

Abstract

Aims: Molecular hydrogen (H2) has attracted growing interest because of its implications in various diseases. However, the molecular mechanisms underlying the remarkable effect of a small amount of H2 remain elusive. No knowledge has been available on the role of H2 in the etiology of pregnancy disorders or its direct influence on human immune cells. Since maternal immunity, T cells in particular, plays a critical role in pregnancy maintenance. We investigated the effects of H2 on T cells and its relation to preterm birth (PTB).

【目的】分子状水素(H2)は、その様々な疾患への関与から注目を集めている。しかし、わずかな量の水素の驚異的な効果の分子メカニズムはまだ解明されていない。妊娠障害の病因における水素の役割やヒト免疫細胞への直接的な影響についても知識がない。母体の免疫、特にT細胞は妊娠の維持において重要な役割を果たしている。私たちは水素がT細胞に及ぼす影響と早産との関連性を調査した。

 

Main methods: Exhaled H2 concentrations in pregnant women were measured and correlated with cytokine concentrations in maternal and umbilical cord blood. H2 was added to T cells collected from healthy donors, and differentiation and proliferation were examined. Energy metabolism was also examined. H2 was administered to mice and cytokine expression was compared.

【方法】妊娠中の女性の呼気中の水素濃度を測定し、母体および臍帯血中のサイトカイン濃度と関連付けた。健康なドナーから収集したT細胞に水素を添加し、分化と増殖、エネルギー代謝を調べた。マウスに水素を投与し、サイトカイン発現を比較した。

 

Key findings: Our prospective observational study revealed that maternal production of H2 is significantly lower in pregnant women with PTB, suggesting its potential as a biomarker for predicting PTB. We found that H2 has clear associations with several maternal cytokines, and acts as an immunomodulator by exerting mitochondrial function in human T cells. Moreover, in vivo administration of H2 to pregnant mice regulated inflammatory responses and reduced PTB caused by T cell activation, which further supports the notion that H2 may contribute to prolonged gestation through its immunomodulatory effect.

【結果】私たちの前向き観察研究では、早産女性の母体における水素の産生量が有意に低いことが明らかになった。これは、水素が早産を予測するバイオマーカーとしての潜在的な可能性を示唆している。また、水素がいくつかの母体のサイトカインと明確に関連しており、ヒトT細胞においてミトコンドリア機能を調節することで免疫調節作用を発揮していることを発見した。さらに、妊娠マウスへの水素の体内投与は、炎症反応を調節し、T細胞の活性化による早産を軽減した。これは、水素が免疫調節作用を通じて妊娠期間を延長する可能性があることをさらに裏付けている。

 

Significance: Measuring maternal H2-production could be a potential clinical tool in the management of PTB, and H2 may have positive impact on pregnancy maintenance.

【意義】母体の水素産生量の測定は、早産の管理における潜在的な臨床ツールとなり得るだけでなく、水素は妊娠の維持に良い影響を与える可能性がある。

 

Keywords: Effector T cellエフェクターT細胞; Gut microbiome腸内細菌叢; Obstetrics産科学; ROS活性酸素種; Th17 Th17細胞; Treg Treg細胞.

 

Copyright © 2022 Elsevier Inc. All rights reserved.

 

Conflict of interest statement: Declaration of competing interest The authors declared no potential conflicts of interest with respect to the research, authorship, and/or publication of this article.

【利益相反】なし

 

 

英語 日本語 説明
T cell T細胞 免疫系の中で重要な役割を果たす特殊なリンパ

球(免疫応答に関与する血液中の細胞の一群)。

キラーT細胞とヘルパーT細胞の2種類に大別さ

れる。胸腺で教育を受け成熟したT細胞は、体

内のリンパ組織や血液中を巡回し、免疫応答の

制御や異物/異常細胞の排除など、体の免疫シ

ステムの重要な機能を担う。

キラーT細 ウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷し排除する

細胞性免疫に関わる。

ヘルパーT細胞 抗原刺激に応答して、他の免疫細胞のはたらき

を調節する司令塔の役割を果たす。

胸腺 胸骨の裏にある組織で、左右二つからなり、心

臓の上にかぶさるように位置している。骨髄で

作られた未熟なリンパ球(T細胞)をたくまし

く育てるところ。T細胞の95%ほどは試験に脱

落するきびしい選択の場所。

Effector T cell エフェクターT細胞 抗原にさらされたことのないT細胞が抗原と遭

遇して分化活性化された状態。がんや病原体

(細菌・ウイルス・寄生虫・真菌など)の排除

やがんなどの異常細胞の破壊に最適な免疫反応

を誘導する。

抗原 病原性のウイルスや細菌、花粉、卵、小麦など

の生体に免疫応答を引き起こす物質。

Th17 Th17細胞 白血球の一種であるヘルパーT細胞(Th細胞)

のサブセットの一つ。腸管における存在量が多

い。特に粘膜障壁と上皮障壁で細胞外病原体に

対する宿主防御において役割を果たす。サイト

カインであるIL-17を産生することができる。

粘膜障壁 呼吸器、消化器、泌尿器、生殖器などの器官の

内部を覆う薄い組織(粘膜)の表面に存在する

生体防御の重要な要素。密に配置されており隙

間がほとんどないため、外界からの侵入を防ぐ

防御的なバリアを形成する。

上皮障壁 皮膚、粘膜、内蔵器官の内部などさまざまな場

所に存在し、体内の組織や器官を病原体から守

るために重要な役割を果たす組織。免疫関連の

受容体を発現して病原体の侵入を感知すると免

疫応答を活性化する。

Treg Treg細胞(制御性T細胞) T細胞(免疫抑制細胞)の一つ。主に免疫が自

分の体を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患の

発症に関わり、自己に対する免疫応答を抑制

(免疫寛容)する役割を持つ細胞。

Gut microbiome 腸内細菌叢 腸内に棲息している細菌の集まりのこと。早産

を含むさまざまな疾病発症に関わり、

Th17/Tregの分化誘導にも大きな影響を与える。

生体内における唯一の水素産生源でもある。

Obstetrics 産科学 妊娠・出産に関連する医学の分野。
pregnancy disorders 妊娠障害 妊娠に起因するまたは関わる障害。流産、

早産、子癇前症(妊娠高血圧症候群)、胎

児発育不全、胎児異常などさまざまな種類

がある。

preterm birth (PTB) 早産 妊娠の37週未満での赤ちゃんの出産を指す。

通常の妊娠では、妊娠期間は約40週間だが

早産の場合は予定よりも早く赤ちゃんが生

まれる。早産および胎児期に感染/炎症に曝

された児は、脳性麻痺や慢性肺疾患など長

期予後に大きな影響を及ぼすことが知られ

ており、世界的な問題である。

免疫寛容 免疫システムが自分自身の組織や細胞、

胎児を異物として誤って攻撃するのを防

ぐメカニズムのこと。

umbilical cord blood 臍帯血 新生児の臍帯(へその緒)のなかを流れ

る血液。この血液には高濃度の幹細胞

(すべての血球が産生される細胞)が含

まれている。

cytokine サイトカイン 細胞から分泌されるタンパク質であり、

細胞間相互作用に関与する生理活性物質

の総称。主に①免疫細胞を目的部位に集

積する働き、②T細胞など獲得免疫系の

細胞の分化を誘導する働き、③獲得免疫

系および自然免疫系を活性化し、がんや

病原体などの異物を排除する働きなどが

あることがわかっている。

ROS ROS(活性酸素種) 酸素分子(O2)に由来する反応性の高い

分子群の総称。生体内の酸化剤。ミトコ

ンドリアの電子伝達系における副産物と

して産生される。

mitochondrial ミトコンドリア ほぼすべての細胞に存在し、生命活動に

必要なエネルギーを作り出す細胞小器官。

生体内の約95%の酸素を消費し、内1~3%

が活性酸素種に変換されると推測されて

いる。

prospective observational study 前向き観察研究 研究者が参加者を特定の基準や指標に基

づいて選び、その後の時間経過とともに

特定の結果を観察する方法。特定のライ

フスタイル/行動が将来の健康(疾患の

発症、全体的な生存率など)にどのよう

に影響するかを調査する。