水素の大腸がん抑制効果
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https://h2-therapy.com/wp-content/uploads/2023/10/b2917719e3135b24dd371764745b5ec5.pdf
Molecular Hydrogen Inhibits Colorectal Cancer Growth
via the AKT/SCD1 Signaling Pathway
水素の大腸がん抑制効果
(10秒で読めるまとめ)
ヒト大腸がん細胞株を異なる水素濃度で培養した結果、低濃度(30%)の水素で強力な腫瘍抑制効果を示し、濃度を上げる(50%以上)ことで抑制できるがん細胞株の種類が増えることがわかり、大腸がん細胞移植マウスでは、水素吸入により腫瘍の成長が著しく抑制された。
(1分で読めるまとめ)
◆結論
水素は大腸がんに対して、強力な腫瘍抑制効果をもつ。
◆ポイント
· 腫瘍細胞は酸化的な環境を好むが、そこに抗酸化物質が存在すると、腫瘍が
最適な酸化還元バランスに達するのを防ぎ、腫瘍細胞の成長や生存を妨げるこ とができる。 |
· 放射線療法、化学療法、標的療法を受けていない大腸がん患者のがん組織を
、異なる水素濃度(30%、50%、70%)または空気(5%CO2、21%O2、74 %N2)で培養し、それぞれが大腸がん細胞株(RKO、SW480、HCT116)の 成長に与える影響を評価した。 |
· 低濃度の水素(30%)はSW480に強力な抑制効果を示し、RKOとHCT116の
成長は高濃度の水素(50%以上)のみで抑制された。(論文本文参照) |
· 高濃度水素(50%)は、RKO、SW480、HCT116細胞から生じるコロニー数
を減少させた。(論文本文参照) |
· ヒト大腸がん細胞株を移植したマウスを水素ガス(67%H2+33%O2)に晒
したところ、水素吸入により、腫瘍の体積と重量が著しく減少した。 |
(原文と翻訳)
Abstract
Objective: Molecular hydrogen (H2) has been considered a potential therapeutic target in many cancers. Therefore, we sought to assess the potential effect of H2 on colorectal cancer (CRC) in this study.
【目的】分子水素(H2)は多くのがんで潜在的な治療対象と考えられている。従って、この研究では大腸がん(CRC)に対する水素の潜在的な効果を評価した。
Methods: The effect of H2 on the proliferation and apoptosis of RKO, SW480, and HCT116 CRC cell lines was assayed by CCK-8, colony formation, and flow cytometry assays. The effect of H2 on tumor growth was observed in xenograft implantation models (inhalation of 67% hydrogen two hours per day). Western blot and immunohistochemistry analyses were performed to examine the expression of p-PI3K, PI3K, AKT, pAKT, and SCD1 in CRC cell lines and xenograft mouse models. The expression of SCD1 in 491 formalin-fixed, paraffin-embedded CRC specimens was investigated with immunochemistry. The relationship between SCD1 status and clinicopathological characteristics and outcomes was determined.
【方法】大腸がん細胞株RKO、SW480、HCT116の増殖とアポトーシスに対する水素の影響を、CCK-8、コロニー形成、フローサイトメトリー解析によって評価した。腫瘍成長への水素の影響は、異種移植モデルで観察した(1日2時間の67%水素吸入)。大腸がん細胞株と異種移植マウスモデルでp-PI3K、PI3K、AKT、pAKT、SCD1の発現を調べるために、ウェスタンブロットと免疫組織化学分析を実施した。491個のホルマリン固定パラフィン包埋された大腸がん検体中のSCD1発現が免疫組織化学で調査された。SCD1の状態と臨床病理学的特徴および結果との関連性を確認した。
Results: Hydrogen treatment suppressed the proliferation of CRC cell lines independent of apoptosis, and the cell lines showed different responses to different doses of H2. Hydrogen also elicited a potent antitumor effect to reduce CRC tumor volume and weight in vivo. Western blot and IHC staining demonstrated that H2 inhibits CRC cell proliferation by decreasing pAKT/SCD1 levels, and the inhibition of cell proliferation induced by H2 was reversed by the AKT activator SC79. IHC showed that SCD1 expression was significantly higher in CRC tissues than in normal epithelial tissues (70.3% vs. 29.7%, p = 0.02) and was correlated with a more advanced TNM stage (III vs. I + II; 75.9% vs. 66.3%, p = 0.02), lymph node metastasis (with vs. without; 75.9% vs. 66.3%, p = 0.02), and patients without a family history of CRC (78.7% vs. 62.1%, p = 0.047).
【結果】水素治療は、アポトーシスとは無関係に大腸がん細胞株の増殖を抑制し、細胞株は異なる水素投与量に対して異なる反応を示した。また、水素は大腸がんの腫瘍体積と重量を有意に減少させる強力な抗腫瘍効果を示した。ウェスタンブロットとIHC染色は、水素がpAKT/SCD1レベルを低下させて大腸がん細胞の増殖を抑制することを示し、水素が誘発した細胞増殖抑制はSC79(AKT活性化剤)によって逆転された。IHCは、SCD1発現が大腸がん組織で正常上皮組織よりも有意に高いこと(70.3%対29.7%、p=0.02)、より進行したTNMステージ(III対I + II;75.9%対66.3%、p=0.02)、リンパ節転移(有り対無し;75.9%対66.3%、p=0.02)、CRC家族歴のない患者(78.7%対62.1%、p = 0.047)と相関していた。
Conclusion: This study demonstrates that high concentrations of H2 exert an inhibitory effect on CRC by inhibiting the pAKT/SCD1 pathway. Further studies are warranted for clinical evaluation of H2 as SCD1 inhibitor to target CRC.
【結論】高濃度の水素がpAKT/SCD1経路を抑制することで大腸がん抑制効果を発揮することを示している。大腸がんを標的としたSCD1阻害剤としての水素の臨床評価のために、さらなる研究が必要である。
Copyright © 2022 Xiangyan Zhang et al.
Conflict of interest statement: The authors declare no conflicts of interest.
【利益相反】なし
英語 | 日本語 | 説明 |
Colorectal cancer (CRC) | 大腸がん | 大腸(結腸・直腸・肛門)の一番
内側にある粘膜に発生するがん。 治療には内視鏡治療、手術、薬物 療法、放射線治療などがある。 |
Tumor | 腫瘍 | 身体にできた細胞の塊のこと。
無秩序に増殖しながら周囲の臓器 を食い破るように広がったり(浸 潤)、身体のあちこちに新しい塊 を作ったり(転移)する腫瘍を悪 性腫瘍=「がん」と呼ばれる。 |
TNM stage | TNMステージ | がんのステージ(進行度合い)を
評価する指標。T(腫瘍の大きさ と深さ)、N(リンパ節への転移 と広がり)、M(遠隔転移)の三 要素で評価する。例:N0(リンパ 節転移がなし)、N1・N2(リンパ 節転移あり) |
lymph node metastasis | リンパ節転移 | がん細胞がリンパ節に広がる現象。
一般的に、がんの進行を意味する。 |
family history of CRC | 大腸がん家族歴 | 血縁者の中に大腸がんの症例が存
在するかに基づいて、個人の大腸 がんリスクを評価する方法。遺伝 的な要因や家庭環境の共有によっ て、大腸がんの発症リスクが高ま ることが示唆されている。 |
apoptosis | アポトーシス | 体内の細胞が計画的に自滅(細胞
死)するプロセス。健康な生体の 成長、免疫応答、組織の修復、細 胞のホメオスタシス(安定性)に 不可欠。細胞の老化や損傷細胞・ 異常細胞の排除、免疫系における T細胞の選別、発がん性細胞の制 御などに関与する。 |
colony formation | コロニー形成 | 細胞が一つから始まり、増殖して
多くの細胞からなる集団(コロニ ー)を形成する現象。細胞の増殖 や挙動を評価する指標になる。 |
RKO | RKO細胞 | 大腸腺癌から派生したがん細胞株
。比較的異常型のp53遺伝子を持 っており、腫瘍抑制遺伝子の機能 が喪失している。がんの増殖や腫 瘍形成メカニズムの研究に使用さ れる。 |
SW480 | SW480細胞 | 直腸癌から派生したがんの細胞株。
比較的異常型のp53遺伝子を持って おり、大腸がんの増殖、浸潤、転 移に関する研究に使用される。 |
HCT116 | HCT116細胞 | 大腸がんの細胞株。p53遺伝子の
変異をもち、がん治療の薬剤の評 価、細胞生物学的研究に活用され る。 |
p53遺伝子 | 異常な細胞増殖やがん細胞の形成
を防ぐがん抑制タンパク質の遺伝 子。がん細胞では、p53遺伝子に 変異が生じて正常な機能を失うこ とで、がん細胞がDNA損傷に対す る制御を失い、異常な増殖を許可 する。 |
|
normal epithelial tissues | 正常上皮組織 | 健康な状態の上皮組織。多層の細
胞が密集配置され、表面や腔内を 覆ったり、臓器や組織の表面に保 護的なバリアを作る役割を果たす。 |
CCK-8 | セルカウンティングキット-8 | 細胞の生存性や増殖性を評価する
ための試薬。細胞増殖、細胞毒性 、化学物質の感受性試験において 、細胞数を測定する。 |
flow cytometry assays | フローサイトメトリー | 細胞解析技術。レーザーを利用し
、不均一な混合液中の細胞を計数 、選別、特性解析する。短時間に 多くの細胞数を客観的に測定でき 、目的の細胞集団によるクラスタ ー分析も可能。 |
xenograft implantation | 異種移植 | 異なる生物種から取得した組織や
細胞を実験対象の生物体に移植す ること。例:がん細胞や組織をマ ウスやラットに移植する。 |
Western blot | ウェスタンブロット | タンパク質の分析手法。タンパク
質の存在、量、サイズなどが調査 できる。 |
immunohistochemistry analyses | 免疫組織化学分析(IHC) | 組織中のタンパク質の存在と位置
を実証する方法。目的の標的分子 を染色で視覚化する。癌などの進 行・治療を評価するのに有用とさ れる。 |
PI3K | ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ | 細胞内シグナル伝達に関与する酵
素。細胞の生存、増殖、分化、運 動、代謝など多くの生理学的プロ セスを制御する。細胞の異常増殖 や生存の調節に関わる。 |
p-PI3K | リン酸化PI3キナーゼ | PI3K(PI3キナーゼ)がリン酸化
された状態。 |
リン酸化 | 細胞内のタンパク質や分子にリン
酸基(リン酸分子)が付加されて 、タンパク質の性質や活性が変化 すること。遺伝子の発現を変化さ せたり、細胞内の情報伝達や細胞 の増殖・分裂などを調節したりす る。 |
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AKT | AKT(別名Protein Kinase B) | 細胞死(アポトーシス)を制御す
る重要な細胞内シグナル伝達因子 。細胞の増殖、生存に作用する。 AKTの活性化は様々なヒト悪性腫 瘍の病因となる。 |
pAKT | リン酸化AKT | AKTがリン酸化された状態。 |
SC79 | SC79 | AKT経路を活性化する薬剤。 |
SCD1 | ステアロイルCoAデサチュラーゼ1 | 脂肪酸代謝に関与する酵素。
脂肪酸の変換を調節し、細胞 の脂質代謝に影響を与える。 |
formalin-fixed, paraffin-embedded CRC specimens | ホルマリン固定パラフィン包埋された大腸がん検体 | 試料を薄切りにするための前
処理(ホルマリン固定・パラ フィン包埋)が施された大腸 がん組織試料。ホルマリン固 定:組織の構造を保存する特 別な化学液に浸すこと。パラ フィン包埋:蝋状の物質で包 み込むこと。 |