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論文9

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Protective effects of molecular hydrogen on hepatotoxicity induced by sub-chronic exposure to chlorpyrifos in rats

農薬が引き起こすネズミの肝毒性への水素の保護効果

 

 

 

(10秒で読めるまとめ)

クロルピリホス(農薬)によって肝障害が起きたネズミに水素水を8週間飲ませた結果、水素がもつ選択的・効果的な抗酸化作用により、農薬が誘発する酸化ストレスが大幅に軽減され、農薬の毒性から肝臓が保護されることがわかった。

 

 

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

水素が、酸化ストレスを効果的に抑制することで、クロルピリホス(農薬)の毒性から肝臓を保護することがわかった。

◆ポイント

·   クロルピリホス(農薬)が引き起こす肝毒性への水素の作用を調べるため、

この農薬を投与したネズミを、水素水を8週間飲ませるグループとそうでない

グループに分け、酸化ストレスや肝障害の程度を比較した。

·   水素水を飲んだグループでは、酸化ストレスと戦う物質(SOD・CAT・GSH)

の値が軒並み上がり、肝障害の程度を表す因子(ALP・AST)の値が大幅に

下がった。(論文中の図表参照)

·   この農薬に曝されることで発現する12の酸化ストレス関連遺伝子が特定され、

その内8つが水素により著しく弱毒化した。

 

 

 

(原文と翻訳)

Abstract

Introduction: Chlorpyrifos (CPF) is a organophosphate insecticide widely used in agriculture with attendant adverse health outcomes. Chronic exposure to CPF induces oxidative stress and elicits harmful effects, including hepatic dysfunction. Molecular hydrogen has been identified as a novel antioxidant which could selectively scavenge hydroxyl radicals.

【背景】クロルピリホス(CPF)は、農業で広く使用されている有機リン系殺虫剤で、これに慢性的にさらされると酸化ストレスが誘発され、肝機能障害などの健康に有害な影響が起こる。水素は、ヒドロキシルラジカル(毒性の最も強い活性酸素)を狙って除去できる新しい抗酸化剤であることが判明している。

 

Objective: The aim of this study was to determine whether the intake of hydrogen-rich water (HRW) could protect rats from hepatotoxicity caused by sub-chronic exposure to CPF.

【目的】この研究の目的は、水素水(HRW)の摂取が、クロルピリホスへの亜慢性曝露によって引き起こる肝毒性からネズミを保護できるのかどうか、判断すること。

 

Material and methods: Rats were treated with hydrogen-rich water by oral intake for 8 weeks. Biochemical indicators of liver function, SOD and CAT activity, GSH and MDA levels were determined by the spectrophotometric method. Liver cell damage induced by CPF was evaluated by histopathological and electron microscopy analysis. PCR array analysis was performed to investigated the effects of molecular hydrogen on the regulation of oxidative stress related genes.

【方法】ネズミに8週間水素水を飲ませる治療をした。肝機能の生化学的指標、SODおよびCAT活性、GSHおよびMDA値は、分光光度法によって決定した。クロルピリホスによって誘発された肝細胞の損傷は、組織病理学的および電子顕微鏡分析によって評価した。酸化ストレス関連遺伝子の調節に対する水素の影響を調査するために、PCRアレイ分析を行った。

 

Results: Both the hepatic function tests and histopathological analysis showed that the liver damage induced by CPF could be ameliorated by HRW intake. HRW intake also attenuated CPF induced oxidative stress, as evidenced by restored SOD activities and MDA levels. The results of PCR Array identified 12 oxidative stress-related genes differentially expressed after CPF exposure, 8 of chich, including the mitochondrial Sod2 gene, were significantly attenuated by HRW intake. The electron microscopy results indicated that the mitochondrial damage caused by CPF was alleviated after HRW treatment.

【結果】肝機能検査と組織病理学的分析の両方で、水素水の摂取によって、クロルピリホスに誘発された肝障害を改善できることがわかった。また、SOD活動の回復とMDA値により、水素水はクロルピリホスが誘発する酸化ストレスを軽減することが証明された。PCRアレイの結果、クロルピリホス曝露後すぐに発現する12の酸化ストレス関連遺伝子が特定され、その内のSod2を含む8つが水素水摂取により著しく弱毒化した。電子顕微鏡分析の結果では、クロルピリホスによって引き起こされたミトコンドリアの損傷が水素水治療後に軽減された。

 

Conclusions: The results obtained suggest that HRW intake can protect rats from CPF induced hepatotoxicity, and the oxidative stress signaling and the mitochondrial pathway may be involved in the protection of molecular hydrogen.

【結論】水素水の摂取は、ネズミをクロルピリホスによる肝毒性から保護することができ、酸化ストレスシグナル伝達とミトコンドリア経路がこの保護作用に関与している可能性があることを示唆している。

 

Keywords: Mitochondrial pathwayミトコンドリア経路; chlorpyrifosクロルピリホス; hepatotoxicity肝毒性; molecular hydrogen水素分子; oxidative stress酸化ストレス.

 

 

 

英語 日本名 説明
Chlorpyrifos (CPF) クロルピリホス 有機リン系殺虫剤。

コリンエステラーゼ阻害作用を持ち、

農薬やシロアリ駆除などに広く用い

られる。農薬としての残留性が高く、

中毒症状を起こすと、頭痛・吐き気・

目の痛みなどの症状が出る。

コリンエステラーゼ 肝細胞でのみつくられる酵素で、

血液中へ放出され、からだ中に

存在する。神経伝達物質

アセチルコリンを分解する働き

がある。

アセチルコリン 代表的な神経伝達物質。中枢神経で

働く場合、記憶や認知能力に関係し、

不足するとアルツハイマー病を

引き起こす。末梢神経で働く場合、

筋収縮に作用し、血管拡張、

心拍数低下、消化機能亢進、

発汗などを促す。

コリンエステラーゼ阻害作用 有機リン系殺虫剤(有機リン化合物)

が、コリンエステラーゼと結合して

その働きを阻害し、神経伝達物質で

あるアセチルコリンが分解されず

蓄積し、過剰な興奮状態を引き起こす。

organophosphate insecticide 有機リン系殺虫剤 神経毒性を持つ有機リン化合物を

用いた農薬のこと。接触した虫は

過剰な興奮状態になり、フラフラ

して植物から落ち、最終的に麻痺

して死亡する。

Chronic exposure

(sub-chronic exposure)

慢性暴露(亜慢性曝露) 問題となる因子に、長い間継続して

さらされること。

(亜慢性: 1ヶ月~3ヶ月程度)

oxidative stress 酸化ストレス 酸化反応(活性酸素が身体を酸化

させること)により引き起こされる

生体にとって有害な作用のこと。

日常生活の様々なことが要因となり、

薬剤の摂取でも酸化ストレスは

起こる。

活性酸素 ほかの物質を酸化させる

(サビさせる)力が非常に強い酸素。

殺菌力が強く体の中に入ってきた

細菌やウイルスを撃退するが、

増えすぎると正常な細胞や遺伝子も

攻撃(酸化)する。

hepatic dysfunction 肝機能障害(肝炎) 何らかの原因により肝臓が障害を

受けて炎症を起こした状態。

一般に「肝炎」と呼ばれる。

antioxidant 抗酸化剤 活性酸素の発生やその働きを抑制し、

活性酸素そのものを取り除く

物質のこと。

hydroxyl radicals ヒドロキシルラジカル 毒性が最も強い活性酸素で、

脂質の連鎖的な酸化を引き起こす。

がんや生活習慣病、慢性疾患、

老化の直接的な原因となっている。

Biochemical indicators 生化学的指標 血液や身体の成分について、

生体から目的の分子を取り出して

試験管内で実験を行い得た結果。

実際の医療現場での実践に

おいて指標となる。

spectrophotometric method 分光光度法 溶液の濃度

(何がどれだけ入っているか)、

物質の特徴、分子の構造の分析の

ために使われる方法。

SOD スーパー・オキシド・ディスムターゼ 細胞内に発生した活性酸素を除去

する抗酸化酵素。

酸化ストレスから体を守り、

老化・がん・生活習慣病・脳卒中

・心疾患などの活性酸素が原因で

起こる病気を予防する。

mitochondrial Sod2 gene Sod2(スーパーオキシドディスムターゼ2) ミトコンドリアのマーカーであり、

活性酸素を除去する酵素の一種を

産生する遺伝子。

mitochondria ミトコンドリア 細胞の中に含まれる棒状または

粒状の細胞小器官。

エネルギーをたくさんつくる働きを

もつ細胞の「発電所」。

酸素とグルコースから二酸化炭素と

水を作り、生命活動に必要な

エネルギーを取り出す。

独自のDNAを持ち、脂質の酸化、

免疫反応などにおいて不可欠な

働きをしている。

CAT カタラーゼ 細胞内の過酸化水素を水と酸素に

分解することで、細胞の酸化傷害

を緩和する抗酸化酵素。動物では

肝臓・腎臓・赤血球に多い。

GSH グルタチオン(Glutathione, GSH, Glutathione-SH) 肝臓やほかの細胞でつくられる

トリペプタイドという物質。

からだのサビ取り(抗酸化)に

大きな役割を果たすため、

アンチエイジング効果や

アルコール性脂肪肝・肝機能障害

への予防効果が期待されている。

トリペプタイド アミノ酸が3つつながっている

物質のこと。

MDA マロンジアルデヒド 脂質過酸化(原子・分子を酸化させ、

細胞に損傷を与える反応)

物の分解物として生成される

化合物で、脂質過酸化の程度をみる

主要なマーカー。

Histopathological analysis 組織病理学的分析 疾患の症状を研究するため、

標本(組織)を顕微鏡検査で

分析すること。

electron microscopy analysis 電子顕微鏡分析 電子顕微鏡により、原子、分子

の世界を直接観察し分析すること。

観察した微小領域での元素の定性、

定量、元素分布観察や

化学状態分析を行う。

PCR array analysis PCRアレイ分析 PCR :生物の遺伝情報をもつ

DNAを複製して増幅させる方法。

アレイ分析:遺伝子パネル

(病気の発生に関わる複数の

遺伝子のセット)に焦点を

おいた解析。

数種類の遺伝子の発現を

比較できる。

signaling シグナル伝達 生体内または細胞内において、

ホルモン・酵素・たんぱく質などの

情報伝達を担う分子が血流や細胞質を

通じて運ばれ、対応する受容体には

たらきかける過程のこと。

特定の遺伝子発現や細胞の機能変化

などを促す。

ALP アルカリフォスファターゼ 肝臓や骨、小腸、胎盤などに多く

含まれれる酵素の一種で、

これらの臓器がダメージを受けると

血液中に流れ出す。

AST アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ 心臓の筋肉や骨格筋、

肝臓に多く含まれている酵素の

一種で、肝臓や心臓に障害が起きると

血中濃度が上昇する。